犬の口腔内腫瘍

最近SNSの広告で、表示される犬の歯磨きや口腔内腫瘍について気になったので調べてみました。

 

犬の死因として「口腔内腫瘍」が最も多い??

犬の死因の第1位は一般に「がん(腫瘍性疾患)」ですが、その中の一部に過ぎない口腔内の腫瘍が他の主要死因を上回るという統計データは見当たりません。

 

犬の主な死因(統計データ)

近年の大規模な統計によれば、犬の死因として最も多いのは「腫瘍(がん)」であり、次いで心臓疾患や腎臓・泌尿器疾患などが上位を占めます​jstage.jst.go.jp​i-hoken.info。高齢になるほどがんによる死亡の割合が高くなり、10歳前後でピークになる傾向も報告されています。

一方、「口腔内腫瘍」を死因のカテゴリとして特に挙げている統計は少なく、その割合は他の主要死因と比べてごく小さいのが現状です。

日本国内のデータ: 2020~2021年に日本の動物病院で死亡した犬1,582頭を分析した学術研究では、腫瘍(がん)18.4%が最多, 次いで循環器疾患17.3%, 泌尿器疾患15.2%となっています​jstage.jst.go.jp。同様にペット保険会社のデータでも「がん」54%が突出して多く、次いで心臓病17%、腎不全7%などとなっており、がんが犬の死因全体の過半数を占めるとの報告があります​i-hoken.info​i-hoken.info。これらはいずれも「腫瘍性疾患」を大分類でまとめたもので、口腔内の腫瘍はこの一部に含まれます。なお、前述の学術研究では「歯および口腔内の疾患」を独立項目としていますが、その割合はわずか0.3%(5例)に過ぎません​jstage.jst.go.jp(※この項目には口内炎や歯周病など非腫瘍疾患も含まれ、悪性の口腔内腫瘍は「腫瘍18.4%」に計上されています)。

海外(アメリカ・ヨーロッパ)のデータ: 同様に、海外でも腫瘍性疾患が犬の主要死因であることが確認されています。例えば、米国の大学付属動物病院の記録(1984~2004年, 約7万件)を分析した研究では、腫瘍が約30%と最も多く、次いで外傷(事故など)約10%、感染症約6~7%という結果でした​。イギリスの一次診療(プライマリケア)データでも腫瘍疾患16.5%が最多で、次いで筋骨格系11.3%, **神経系11.2%と報告されています​。また、飼い主報告による英国ケネルクラブ登録犬の調査では、「老衰」18%がトップでがん(詳細不明)27%とする結果もあります​。国や調査方法によって老衰や不明とされたケースの扱いが異なるものの、総じて腫瘍(がん)が犬の死因トップクラスであり、心臓病や腎疾患などがそれに続く点は共通しています​。

要するに、「がんで亡くなる犬が多い」ことは事実ですが、その中で特に口腔内の腫瘍が最も多いわけではないということです。