ペット腸サミット2025⑭
犬の消化器健康と炎症抑制におけるフードセラピー(食事療法)の活用
Dr. Susan Bohrer(カリフォルニア州の獣医師)
1. 食事療法(Food Therapy)とは
伝統的中獣医学(TCVM)の一分野であり、鍼灸・漢方・推拿(マッサージ)などと並ぶ治療法。
「食は第一の薬」とされ、体質(冷え・熱・湿・乾など)のバランスを整えるために、
食材そのもののエネルギー特性(温・涼・乾・潤)を利用する。
2. エネルギー(気)と食の関係
中医学では生命エネルギー「気(Qi)」は
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先天的なエネルギー=「精(Jing)」
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食物から得る後天的エネルギー
から構成される。
したがって、食の質が直接「気」の強さ=生命力に影響する。
3. ドッグフードの歴史と問題点
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1920年代:馬肉缶詰から商業フード開始
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1940年代:乾燥フード登場(高温処理・低品質原料)
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1960年代:処方食(ヒルズ社)誕生
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1990年代:生食(BARF)が流行
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近年:人間用食材を使った低温調理食が増加
Dr. Bohrerは、**「加熱加工の多いフードは“熱と乾燥”を生む=炎症・慢性疾患の原因」**と説明。
4. 犬の体質と食材の選び方
| 体質 | 症状 | 適した食材例 |
|---|---|---|
| 冷え(気虚・陽虚) | 元気がない、筋肉減少、食欲低下 | 鶏肉、卵黄、ラム、オート麦、冬カボチャ |
| 熱(炎症・陰虚) | 舌が赤い、パンティング、乾燥肌 | 七面鳥、アヒル、卵白、ウサギ、ブロッコリー、大麦 |
| 乾燥(血虚) | 乾燥肌、白髪、靭帯損傷 | 牛肉、卵、サーディン、バナナ |
| 湿・痰(停滞) | 肥満、皮膚の酵母感染、腫瘍 | 大麦、キノコ、梨、ダイコン、リンゴ少量 |
5. 炎症性疾患への応用
(1) 膵炎(Pancreatitis)
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中医学的には「熱(特に胃熱)」の停滞。
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高脂肪ではなく、「低脂肪・冷性の全食材」が推奨。
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七面鳥・鶏胸肉・卵白などが良い選択。
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(2) 炎症性腸疾患(IBD)
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免疫バリアの破綻による慢性炎症。
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中医学では「脾気虚」+「湿熱」。
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西洋医学の「新規タンパク源(novel protein)」の考えを組み合わせ、
**豚肉+冷性野菜(大麦・サツマイモ)**を推奨。
(3) 消化器系腫瘍(GI cancers)
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病理:気血の停滞 → 熱化 → 腫瘍化。
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**「まず食べること」**が最重要(食欲維持が生命線)。
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牛肉などの「補血・補気食材」で体力維持。
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炎症抑制のため低炭水化物・低熱性のメニューを選ぶ。
6. 栄養バランスとサプリメント
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手作り食には必ずカルシウム・リン・微量ミネラルの補給が必要。
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栄養補助剤(AAFCO基準対応)を使用。
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山羊乳は乳糖が少なく、天然プロバイオティクスとして有用。
