ペット腸サミット2025㉗
- 作成者: acacia-vet
Beyond the Microbiome
Dr. Betsy Redmond
腸の構造と機能
腸は4層構造から成る:
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腸管内腔(lumen):食物や腸内細菌が存在する場所。
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粘液層(mucus layer):善玉菌をサポートし、内容物を滑らかに移動させる。
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上皮細胞層(epithelial layer):栄養吸収を行う細胞。タイトジャンクションで結合される。
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固有層(lamina propria):血管と免疫細胞が豊富で、吸収後の反応が起こる。
腸の異常と疾患
炎症と免疫
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Calprotectin:好中球の活動を示す炎症マーカー。IBD(炎症性腸疾患)などで上昇する。
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Secretory IgA:腸上皮の免疫防御の指標。低すぎると免疫疲弊、高すぎると過剰反応(寄生虫・食物反応・菌バランス不良)を示す。
犬のIBD(炎症性腸疾患)
主な原因:
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遺伝的素因(特定犬種に多い)
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免疫異常
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環境要因
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微生物バランスの乱れ(dysbiosis)
治療アプローチ:
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食事反応型(Food-responsive)
→ 新しいタンパク質源(サーモン、コオロギなど)へ切り替える。 -
抗生物質反応型
→ 腸内細菌叢の異常をリセット。 -
ステロイド反応型/難治型
→ 炎症が強い場合に短期間の免疫抑制で鎮静。
腸免疫とストレスの影響
ストレスは消化吸収と免疫防御の両方を悪化させる。
犬は「いつ散歩に行くか」「いつご飯をもらえるか」が明確な生活リズムで安心する。
→ 定時の生活と穏やかな環境が腸の健康に不可欠。
リーキーガット(腸漏れ症候群)
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腸のタイトジャンクションが緩むと、未消化タンパク質や毒素が体内に漏れ、免疫反応が亢進する。
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Zonulin上昇はそのサイン。
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**抗グリアジンIgA(抗グルテン抗体)**が高い場合、グルテン除去が有効。
消化と解毒(Detox)
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Pancreatic Elastase:膵酵素の一種で、消化機能を反映。低値は膵不全の可能性。
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β-Glucuronidase:腸内細菌が過剰に産生すると、肝臓で解毒されたホルモンや毒素を再吸収させる(デトックス阻害)。
→ Dysbiosis(腸内菌バランスの崩れ)で上昇。
治療・管理の選択肢
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プロバイオティクス(例:Saccharomyces boulardii)
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プレバイオティクス(食物繊維)
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ポリフェノール(抗酸化・腸内細菌の餌)
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抗炎症サプリ(クルクミン、ケルセチン、オメガ3など)
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粘膜修復サプリ(アロエ、スリッパリーエルム、グルタミン)
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毒素回避(除草剤、二次喫煙、化学洗剤など)
ケーススタディ
ケース1:Arlo(ボクサー犬)
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症状:断続的な下痢。
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検査:Calprotectin低値(炎症なし)、Secretory IgA高値、抗グルテン抗体高値。
→ グルテン除去とプロバイオティクスで改善。
ケース2:June
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症状:引っ越し後の慢性下痢と体重減少。
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検査:Calprotectin・Zonulinともに高値。
→ 炎症と腸透過性亢進。食事改善と抗炎症サプリで回復。
