犬のアレルギー①
犬のアレルギーサミットにおける、スーザン・ボーラー博士へのインタビューより
食事は最初の薬——東洋医学とホールフードで取り組む犬のアレルギー改善
- はじめに:食事と皮膚の密接な関係
東洋医学では「犬の健康状態や栄養状態を知りたければ、皮膚と被毛を見ればよい」と言われるほど、食事とアレルギーには強い相関があります 。西洋医学では、食物アレルギー以外の環境アレルギー(花粉やダニなど)は食事と無関係とされがちですが、中医学(東洋医学)の視点では、すべての皮膚トラブルにおいて食事の質が重要視されます 。
- 「加工食品(キブル)」がアレルギーを悪化させる理由
一般的なドライフード(キブル)は高度に加工されており、中医学の概念では体に「熱」と「乾燥」をもたらすとされています 。
- 炎症の誘発: 加工食品はプロ・インフラマタリー(炎症を促進する性質)であり、人間がポテトチップスばかり食べているような状態に近いと言えます 。
- 加齢による悪化: 2歳の時には軽かったアレルギーが、長年加工食品を食べ続けることで10歳になる頃には悪化してしまうという、負の進行が見られることが多くあります 。
- 食事療法の第一歩:リアルフード(本物の食べ物)を取り入れる
アレルギー改善のための最も重要なアドバイスは「可能な限りリアルフードをボウルに入れること」です 。
- ドライフードを減らす: 完全に切り替えられなくても、キブルを半分に減らして手作りの具材を加えるだけでも改善の兆しが見えます 。
- 最初のステップ: まずは冷蔵庫にある「卵(スクランブルエッグ)」をトッピングすることから始めるのが簡単で推奨されます 。
- 期待できる効果: 被毛の質感や色が数週間で変化し始め、体内の炎症が抑えられることで、将来的なアレルギーの進行を緩やかにできます 。
- アレルギー犬のための具体的な食材選び
皮膚が赤く、痒がっている状態は「熱」の症候と捉え、体を冷やす効果のある「冷却性(Cooling)」のタンパク質を選びます 。
- ターキー(七面鳥): 穏やかな冷却作用があり、アレルギー改善の第一選択肢として優秀です 。
- ポーク(豚肉): 潤いを与える効果があり、ターキーにアレルギーがある場合の代替案(ノベルプロテイン)として有効です 。
- 注意点: 魚やアヒルも冷却性が強いですが、冷えすぎる場合があるため、犬の消化状態を見ながら与える必要があります 。
- 炭水化物の制限: 炭水化物の摂りすぎは炎症を招くため、手作り食の場合は全体の75%以上を肉にし、炭水化物は控えめにすることが推奨されます 。
- よくある間違いとアドバイス
- 最初からローテーションしない: アレルギーがひどい時期は、特定のタンパク質を8〜12週間ほど固定して与え、体を落ち着かせることが先決です 。
- 処方食への依存: 処方食のキブルで改善が見られない場合は、原材料の質に目を向け、リアルフードへの移行を検討すべきです 。
- 若いうちからのケア: 子犬の頃から質の高い食事を与えることで、将来的な「火事(激しいアレルギー症状)」を防ぐことができます 。
<中医学のキーワード解説>
アレルギー症状に悩む愛犬の体の中で何が起きているのか、中医学の視点から紐解くと、これまでとは違った解決策が見えてきます。
- 「熱(ねつ)」:体内の炎症という「火事」
中医学では、皮膚の赤み、強い痒み、独特の体臭などを「熱」が溜まった状態と考えます 。
- イメージ: 体の中で小さな火事が起きているような状態です。
- 食事との関係: 高度に加工されたドライフード(キブル)は、その製造工程から「熱」を持ちやすく、乾燥した性質があります 。これを毎日食べることで、体の中に少しずつ「熱」と「乾燥」が蓄積され、皮膚トラブルとして現れるのです 。
- 対策: 「冷却性(Cooling)」のある食材(ターキーや特定の野菜など)を選び、体内の火を鎮めてあげることが大切です 。
- 「気(き)」:生命のエネルギーと「消化の力」
「気」とは、生命を維持するための根本的なエネルギーのことです。
- イメージ: 車を動かすためのガソリンや電気のようなものです。
- 消化と「気」: 犬が食べ物を消化する際にも、自分自身の「気」を使って、食べ物を体温で温め、分解しなければなりません 。
- 生食(ローフード)の注意点: 生の食べ物は消化に多くの「気」を必要とします 。元気な犬には良いエネルギー源になりますが、シニア犬や体が弱っている犬にとっては、消化だけで「気」を使い果たしてしまう(負担が重すぎる)場合があるため、軽く火を通した食事が推奨されることもあります 。
- 「血(けつ)」:美しさを育む栄養の源
中医学には「美しい皮膚と被毛を保ちたいなら、まずは良い血を作れ」という考え方があります 。
- イメージ: 植物を育てるための、栄養たっぷりの「水と肥料」です。
- 食事の重要性: 「血」は食べたもの(栄養)から作られます 。質の悪い原材料や添加物の多い食事では、皮膚を潤すための良質な「血」が作られず、毛並みがパサついたり、皮膚がカサカサになったりします 。
- 改善の兆し: 食事をリアルフード(本物の食材)に変えると、数週間で被毛の輝きや色が変わってくるのは、この「血」の質が改善されるためです 。
