がん細胞が自らの異常なミトコンドリアで免疫系を乗っ取り、生き残りをはかっている
がん細胞由来の異常ミトコンドリアがT細胞に移行し、がん免疫療法の効果を低下させる仕組みを解明
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発表日:2025年1月23日
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主導機関:岡山大学(冨樫庸介教授)
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共同研究機関:千葉県がんセンター、千葉大学、山梨大学、国立がん研究センター、近畿大学、埼玉医科大学、信州大学、東京大学
【研究の背景】
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免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はがん治療において革新的な成果を上げてきたが、半数以上の患者に効果がない。
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がん細胞および腫瘍浸潤T細胞(TIL)ではミトコンドリアの異常が報告されているが、その因果関係は不明だった。
【研究の主な発見】
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がん細胞の異常なミトコンドリアDNA(mtDNA)変異が、TILに検出される(約40%の症例)。
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がん細胞からTILへミトコンドリアが物理的に移動していることを可視化(共培養+蛍光標識)。
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移行した異常ミトコンドリアにより、TILのエネルギー産生能力が低下 → TIL機能が不活化。
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活性酸素種(ROS)がこのミトコンドリア移動を促進しており、抗酸化剤で抑制可能。
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マウスモデルでTILのミトコンドリア機能が損なわれると、がん免疫療法の効果が低下。
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患者データからも、腫瘍にmtDNA変異を持つ場合、ICIの効果持続が短く、全生存率が低下。
【研究の意義と今後の展望】
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本研究はがん細胞が異常なミトコンドリアをTILに送り込み、免疫監視を回避する新しい免疫逃避メカニズムを世界で初めて明らかにした。
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今後、この機構を標的とした新たながん治療戦略(例:ミトコンドリア移行阻害、ROS除去)が期待される。
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また、mtDNA変異の有無を免疫療法の予後予測マーカーとして活用する可能性もある。
【掲載誌】
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本研究成果は『Nature』誌(2025年1月23日号)に掲載された。
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