ビタミンB1摂取量と皮膚がんリスクとの関連性

米国成人におけるビタミンB1摂取量と非黒色腫皮膚がんリスクとの関連性:横断的研究

雑誌
Frontiers in Nutrition, 2025年、12巻、1571991号

著者
Shiyi Huang, Lungang Shi, Yang Ma, Yuebin Zhu, Yingshi Liang, Haofeng Huang

背景
近年、非黒色腫皮膚がん(NMSC)の発症率は増加傾向にあり、主に地球温暖化と紫外線(UV)曝露の増加が要因とされている。特に白人においてはメラニンが少ないため、UVによる皮膚損傷のリスクが高い。NMSCは死亡率は低いものの、その発症率の高さから社会的・経済的負担は大きい。したがって、新たなリスク因子の同定が重要視されており、食生活と疾患との関係に注目が集まっている。ビタミンB1(チアミン)とNMSCの関連性についての研究は限られており、本研究ではその関連を検討することを目的とした。

方法
2005〜2016年の全米健康・栄養調査(NHANES)6サイクルのデータを用いた横断的研究。初期登録者60,936名のうち、条件を満たさなかった30,982名を除外し、最終的に29,954名を解析対象とした。曝露変数は24時間以内の食事から算出したビタミンB1摂取量、結果変数は非黒色腫皮膚がんの罹患の有無である。多変量ロジスティック回帰、曲線フィッティング、サブグループ解析を用いて解析した。

結果
解析対象者の平均年齢は49.66歳で、男女比はほぼ同等だった。NMSCと診断されたのは499名(平均年齢68.27歳、罹患率1.67%)。ロジスティック回帰の結果、ビタミンB1摂取量とNMSC罹患率には有意な正の相関が認められた。ビタミンB1摂取量が1単位増えるごとにNMSCの発症率が11%上昇することが示され、高摂取群では最大1.65倍のリスク増加が認められた。滑らかな曲線フィッティングでは線形の正の関係が示され、サブグループ解析でもこの関連は一貫していた。

結論
ビタミンB1摂取とNMSCの間には正の関連が示された。ただし、本研究は横断研究であるため、因果関係の確定には前向き研究が必要である。

✅【要約(日本語)】

この横断研究では、米国成人におけるビタミンB1(チアミン)の摂取と非黒色腫皮膚がん(NMSC)のリスクとの関連を検討した。約3万人を対象に解析した結果、ビタミンB1の摂取量が多い人ほどNMSCの発症リスクが高く、摂取量が1単位増えるごとにリスクが11%上昇した。高摂取者では最大1.65倍のリスク増加が見られた。サブグループ解析でもこの傾向は変わらなかった。ただし、横断研究であるため、因果関係は断定できない。

✅【コメント】

臨床的・疫学的意義:
 ビタミンB1は一般的に安全と考えられ、むしろ神経保護などの効果が注目されてきました。しかし、本研究はその多量摂取が皮膚がんのリスク増加と関連している可能性を指摘しており、今後の栄養ガイドラインやサプリメント摂取への影響が懸念されます。

研究デザインの限界:
 本研究は横断研究であり、「摂取が先か、がんが先か」の時間的因果性を明確にできません。NMSC罹患者が病後に栄養摂取を変えている可能性も否定できず、**逆因果(reverse causality)**の懸念があります。

栄養疫学的視点:
 ビタミンB群は互いに影響しあうため、ビタミンB1単独の効果を切り出すには交絡因子の厳密な統制が必要です。また、食品群による摂取源の違い(加工食品由来か、全粒穀物由来かなど)もリスクに影響を及ぼす可能性があります。

次のステップ:
 この発見を確認するには、前向きコホート研究やメカニズム研究が求められます。また、どのような食品や代謝経路を介してNMSCリスクが増加するのかを解明することが今後の課題です。