ペット腸サミット2025㉗

Beyond the Microbiome

Dr. Betsy Redmond 

腸の構造と機能

腸は4層構造から成る:

  1. 腸管内腔(lumen):食物や腸内細菌が存在する場所。

  2. 粘液層(mucus layer):善玉菌をサポートし、内容物を滑らかに移動させる。

  3. 上皮細胞層(epithelial layer):栄養吸収を行う細胞。タイトジャンクションで結合される。

  4. 固有層(lamina propria):血管と免疫細胞が豊富で、吸収後の反応が起こる。


腸の異常と疾患

炎症と免疫

  • Calprotectin:好中球の活動を示す炎症マーカー。IBD(炎症性腸疾患)などで上昇する。

  • Secretory IgA:腸上皮の免疫防御の指標。低すぎると免疫疲弊、高すぎると過剰反応(寄生虫・食物反応・菌バランス不良)を示す。

犬のIBD(炎症性腸疾患)

主な原因:

  • 遺伝的素因(特定犬種に多い)

  • 免疫異常

  • 環境要因

  • 微生物バランスの乱れ(dysbiosis

治療アプローチ:

  1. 食事反応型(Food-responsive)
    → 新しいタンパク質源(サーモン、コオロギなど)へ切り替える。

  2. 抗生物質反応型
    → 腸内細菌叢の異常をリセット。

  3. ステロイド反応型/難治型
    → 炎症が強い場合に短期間の免疫抑制で鎮静。


腸免疫とストレスの影響

ストレスは消化吸収と免疫防御の両方を悪化させる。
犬は「いつ散歩に行くか」「いつご飯をもらえるか」が明確な生活リズムで安心する。
→ 定時の生活と穏やかな環境が腸の健康に不可欠。


リーキーガット(腸漏れ症候群)

  • 腸のタイトジャンクションが緩むと、未消化タンパク質や毒素が体内に漏れ、免疫反応が亢進する。

  • Zonulin上昇はそのサイン。

  • **抗グリアジンIgA(抗グルテン抗体)**が高い場合、グルテン除去が有効。


消化と解毒(Detox)

  • Pancreatic Elastase:膵酵素の一種で、消化機能を反映。低値は膵不全の可能性。

  • β-Glucuronidase:腸内細菌が過剰に産生すると、肝臓で解毒されたホルモンや毒素を再吸収させる(デトックス阻害)。
     → Dysbiosis(腸内菌バランスの崩れ)で上昇。


治療・管理の選択肢

  • プロバイオティクス(例:Saccharomyces boulardii)

  • プレバイオティクス(食物繊維)

  • ポリフェノール(抗酸化・腸内細菌の餌)

  • 抗炎症サプリ(クルクミン、ケルセチン、オメガ3など)

  • 粘膜修復サプリ(アロエ、スリッパリーエルム、グルタミン)

  • 毒素回避(除草剤、二次喫煙、化学洗剤など)


ケーススタディ

ケース1:Arlo(ボクサー犬)

  • 症状:断続的な下痢。

  • 検査:Calprotectin低値(炎症なし)、Secretory IgA高値、抗グルテン抗体高値。
    → グルテン除去とプロバイオティクスで改善。

ケース2:June

  • 症状:引っ越し後の慢性下痢と体重減少。

  • 検査:Calprotectin・Zonulinともに高値。
    → 炎症と腸透過性亢進。食事改善と抗炎症サプリで回復。