ペット腸サミット2025㉛
Benefits of Pre & Probiotics for Dogs
Dr. Zac Pilossoph
1. 腸の健康の重要性
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腸は単なる消化吸収器官ではなく、「腸内マイクロバイオーム」という巨大な生態系を持つ。
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腸と脳(gut-brain axis)、腸と皮膚(gut-skin axis)の連携により、行動・皮膚・免疫など全身に影響を及ぼす。
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腸のバランスが乱れると、精神的・皮膚的トラブルに発展することがある。
2. プレバイオティクスとは
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腸内の善玉菌の「餌」となる有機物質(多くは植物由来の食物繊維)。
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大腸まで届き、短鎖脂肪酸(SCFA)などを産生して腸粘膜や免疫を支える。
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食品例:アスパラガス、未熟バナナ、アーティチョーク、リンゴ、チコリ根、ビートなど。
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サプリ例:イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖、ペクチン。
主な効果
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消化・蠕動の改善(便通・腸粘膜バリア強化)
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血糖・脂質・体重など代謝性疾患の補助管理
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免疫系の基礎サポート(腸関連リンパ組織を通じて)
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ストレス性下痢など一時的な腸トラブルの予防
3. プロバイオティクスとは
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生きた微生物で、腸に定着して健康効果をもたらす。
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主な分類:
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常在菌系:Lactobacillus, Bifidobacterium など
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酵母系:Saccharomyces boulardii
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土壌由来菌:Bacillus など(非常在菌だが有益)
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注意:
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発酵食品(ヨーグルトなど)は「ポストバイオティクス」(代謝産物)であり、プロバイオティクス量としては不十分。
4. プロバイオティクスの効果
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栄養吸収改善(ビタミンB群、Ca、鉄、亜鉛)
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腸のバリア機能強化・炎症抑制・免疫調整
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病原菌の競合排除・抗菌物質産生
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リーキーガット症候群(腸漏れ)抑制
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原因:ストレス、化学物質、抗生剤、感染、IBDなど
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結果:免疫異常・慢性炎症・全身症状
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免疫力の強化(IgA分泌増加)
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精神・行動面の安定化(腸‐脳軸によるセロトニン・ドーパミン生成)
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皮膚の健康改善(腸‐皮膚軸:炎症性皮膚疾患・アレルギー改善)
5. 副作用と注意点
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一般に安全だが、過量または体質によってガス・軟便が出る場合あり。
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徐々に増量する(“start low, go slow”)。
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免疫抑制中(ステロイド・化学療法など)や敗血症直後の使用は慎重に。
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サプリメントの品質は製造工程・温度管理・保存方法に大きく依存する。
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1億〜10億CFU以上が目安。
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熱に弱い菌(Lactobacillusなど)は冷蔵保管が必要。
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多くの市販品はラベル通りの菌量が含まれていないことが研究で判明。
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6. 選び方と品質基準
最低条件:
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種名・菌株名の明記(例:L. acidophilus NCFM)
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CFU(生菌数)表示(1億以上)
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有効期限と保存方法
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成分表の「非活性成分(inactive ingredients)」も確認
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例:酸化チタン(Titanium Dioxide)は発がん性が指摘され欧州では禁止傾向。
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望ましい条件:
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第三者検査(Certificate of Analysis)を持つ
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GMP(適正製造基準)準拠
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人間用施設で製造されたペット用製品
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冷蔵配送(温度管理)される製品
7. 使用タイミングと期間の目安
| 状況 | 使用期間 | 備考 |
|---|---|---|
| ストレスや旅行前 | 1週間前から予防的使用 | ストレス性下痢・不安予防 |
| 食事変更時 | 3~7日前から | 腸の適応を助ける |
| 急性下痢(胃腸炎など) | 5〜7日間 | 短期使用で十分 |
| 便秘(特に猫) | 約3〜4週間 | 腸内環境調整 |
| 慢性疾患(IBD・アレルギー) | 長期または継続使用 | 菌株によっては一生使用も |
| 効果判定 | 4〜6週間で評価 | 改善なければ菌株変更を検討 |
※プロバイオティクスは数日〜1週間で体内から消失するため、継続摂取が必要。
8. 健康な犬への使用
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プレバイオティクスは常用してよい(善玉菌の餌)。
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プロバイオティクスは「健康維持目的」での効果は明確でなく、
過剰摂取により腸内バランスを崩す“サプリメント性ディスバイオーシス”の可能性もある。 -
したがって、必要に応じた目的別使用が推奨される。
9. 結論
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腸内細菌のバランスは全身の健康・免疫・精神・皮膚・代謝に直結する。
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プレバイオティクスは腸内環境維持の基盤。
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プロバイオティクスは特定の症状・疾患の補助療法として有効。
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高品質で信頼できる製品を選ぶことが最重要。
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目的・期間・体調に応じて獣医師と相談の上で使用すること。
