歯周病菌と大腸がんの関係
歯周病菌が大腸がんの病態に関連することが知られています。
人の研究で、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)という細菌が、歯周病の治療により便中から減少することを臨床研究において明らかになっています。フソバクテリウム・ヌクレアタムが減少することで、大腸がんの発がんや進行に対する予防となる可能性があります。
また、歯周疾患に羅患した雑種およびビーグル成犬の歯垢細菌叢を調べたところ、すべての犬の細菌叢は主として偏性嫌気性グラム陰性桿菌によって構成されていることがわかっています。カタラーゼ陽性のBacteroides asaccharolyticusは雑種犬で最も高い割合を示されています。ビーグル犬ではB. asaccharolyticusに比べてFusobacterium nucleatumの方が高い割合を示しています。歯周疾患の発症にともないB. asaccharolyticusなどの偏性嫌気性グラム陰性桿菌が増加し,Streptococcus, Enterococcus および Staphylococcusは減少しました。唾液細菌叢は歯周疾患の有無に関係なく,歯垢細菌叢とは異なっています。健康な歯肉を持つビーグル犬の唾液細菌叢は雑種犬のそれとは異なっており、Enterococcus, Lactobacillus, Eubacterium,黒色集落形成性Bacteroidesは雑種犬に比較してビーグル犬で高い割合であったと報告されています。一方,Fusobacterium, Enterobacteriaceae,酵母および真菌は低い割合であったことがわかっています。これらの結果からB. asaccharolyticusおよびF. nucleatumは犬における歯周疾患のcommon pathogenであり,歯肉の炎症の進行に深く関与することが示唆されています。
また、日本人の大腸がんの発生の50%と特定の細菌毒素の関係も全ゲノム解析によって明らかになりました。
解析の結果、日本人症例の5割に、一部の腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異パターンが存在することが明らかになりました。
コリバクチン毒素による変異パターンは、高齢者症例(70歳以上)と比べて若年者症例(50歳未満、大腸がん全体の約10%を占める)に3倍多い傾向がみられ、日本をはじめ世界的に問題視されている若年者大腸がんの重要な発症要因である可能性が示唆されました。
さらに、大腸がん初期段階に起こるドライバー異常であるAPC変異の15%がコリバクチン毒素による変異であることが分かり、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がん発症早期から関与していることも示されました。
大腸がんにおけるコリバクチン毒素による変異パターンは、その時に存在しているコリバクチン毒素産生菌の量とは関連しないことから、早期から持続的に暴露していることが大腸がん発症に寄与するのではないかと推定されます。