犬のアレルギー⑫
このセッションでは、ダン・アニン博士が、「アレルギーと間違われやすい皮膚の自己免疫疾患について解説しています。一見アレルギーのように見えても、実は免疫システムが自分自身の体を攻撃しているケースがあり、その場合は治療法が大きく異なることを強調しています。
記事タイトル:アレルギーの影に隠れた病——自己免疫疾患を見極める重要性
- はじめに:アレルギーと自己免疫疾患の違い
多くの場合、痒みや赤みはアレルギー(外部刺激への過剰反応)として治療されます。しかし、特定のケースでは、体の免疫システムが自分自身の皮膚細胞を敵とみなして攻撃してしまう「自己免疫疾患」が原因であることがあります。これらはアレルギー治療(食事変更や抗ヒスタミン薬など)では改善しません。
- アレルギーと誤解されやすい主な疾患
博士は、特に注意すべき3つの状態を挙げています。
- 落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう):
- 症状: 鼻筋、耳の縁、肉球などに「かさぶた」や「膿疱(うみの袋)」ができます。
- 特徴: 非常に痒がることが多く、一見アレルギー性皮膚炎に見えますが、皮膚の細胞同士を接着する機能が破壊される病気です。
- 円板状エリテマトーデス (DLE):
- 症状: 主に鼻の頭の色が抜けたり(脱色素)、潰瘍ができたりします。
- 特徴: 日光(紫外線)によって悪化するため、夏場に症状が強まる傾向があります。
- ループス様爪異栄養症 (SLO):
- 症状: 突然、複数の爪が根元から剥がれたり、割れたりします。
- 原因不明の爪のトラブルは、アレルギーではなくこの疾患を疑う必要があります。
- 診断の重要性:なぜ「生検(バイオプシー)」が必要か
自己免疫疾患を診断する唯一の確実な方法は、皮膚の一部を採取して調べる「皮膚生検」です。
- 診断の遅れのリスク: アレルギーだと思い込んでステロイドの低用量投与などを続けていると、本当の病気が隠れてしまい、悪化させてしまうことがあります。
- 適切なタイミング: 通常のアレルギー治療を1ヶ月続けても反応がない場合や、病変が鼻や爪に集中している場合は、速やかに専門的な検査を受けるべきです。
- 治療法:アレルギー治療との決定的な違い
自己免疫疾患の治療には、免疫を「調整」するのではなく、一時的に「抑制」する強い治療が必要になることが一般的です。
- 高用量の免疫抑制剤: ステロイドを高用量で使用したり、アザチオプリンなどの特殊な薬を使用したりします。
- 長期管理: 完治させるというよりは、症状が出ない「寛解(かんかい)」状態を維持し、徐々に薬を減らしていくというプロセスになります。
- 飼い主へのアドバイス
- 「よくある病気」の先を見る: 獣医師が「これは普通のアレルギーではないかもしれない」と提案した際、その可能性を排除せずに精密検査を検討してください。
- 早期発見のメリット: 自己免疫疾患であっても、早期に正しく診断されれば、多くの場合で犬は快適な生活を取り戻すことができます。
記事のまとめ
「痒みの原因がすべてアレルギーとは限りません。特に鼻の色の変化や爪の異常、激しいかさぶたが見られる場合は、免疫の暴走(自己免疫疾患)を疑う必要があります。正しい診断こそが、愛犬を苦痛から救う最短ルートです。」
