犬の椎間板ヘルニアに対するオゾン療法の効果

犬の椎間板ヘルニア治療に対するオゾン療法の効果
〜歩行機能回復を指標とした検討〜

目的

 オゾン療法 は、強力な酸化剤であるオゾンを生体に投与することで、生体内で生じる 適度な過酸化水素や過酸化脂質 が及ぼす ホルミシス効果を用いた治療法である。微量のオゾンは 、血液循環の改善 、免疫系の活性化、抗酸化能の強化、抗炎症作用など を示す ことが知られている 。オゾン療法は、ヒトの椎間板ヘルニア治療に有効であることが報告されており、獣医療においても通常のヘルニア治療では改善が認められない犬の椎間板ヘルニアに有効であることが臨床報告されている。しかし、 犬の椎間板ヘルニアへのオゾン治療の有効性を客観的に示した報告は存在していない。本研究では、犬の椎間板ヘルニア治療に対するオゾン療法の有効性を評価するために、オゾン療法を適応した臨床例を解析して、どのような条件でオゾン療法を導入することが望ましいか を 明らかにする ことを試みた。

対象動物

2007年 8 月 2016 年 5 月の間に 来院し、稟告 、身体検査、神経学的検査、X 線 検査、CT 検査そして MRI 検査によって 、 胸腰部の椎間板ヘルニアと診断 された 犬 ( 89 雄 5 2 、雌 37)を対象とした 。犬種の内訳は、ミニチュアダックスフンド n= 69 、狆 n=4 、雑種(n=3 、ミニチュアシュナウザー n= 2 、パピヨン n= 2 、 ビーグル、 アメリカン・コッカ―スパニエル、ジャックラッセルテリア、パグ、柴犬、チワワ、プードル、フレンチ・ブルドッグ、ヨークシャー・テリア 各 n= 1 であった。 また、 平均年齢は 7.5 歳(最大 15 歳、最小 1 歳)、平均体重は 5.83 kg (最大13.4kg 、最小 2.2kg )であった。

椎間板ヘルニアの評価(グレード)

重症度によりグレードⅠ 疼痛のみ、神経学的異常なし 、 グレードⅡ歩行可能、不全麻痺 、 グレードⅢ( 歩行不可能、不全麻痺 、 グレードⅣ(対麻痺、膀胱麻痺、深部痛覚あり)、 そしてグレードⅤ( 対麻痺、深部痛覚なしに分類した 。

評価項目

 治療開始時と 治療介入後の最終的な グレード 、年齢、 性別 、初診時の体重、 発症 から初診時までの経過日数、手術の有無、ステロイド剤使用の有無、消炎鎮痛剤使用の有無、 オゾン治療による 最初の症状改善傾向を示すまでの治療日数と回数、グレードが 改善 するまでの治療日数と回数、最終 的な グレードまでの治療日数と 回数について 解析した 。 治療開始時の椎間板ヘルニアのグレード評価から、歩行可能な低グレード群(グレードⅠ、Ⅱ)と歩行不可能な高グレード群(グレードⅢ、Ⅳ、Ⅴ)の 2 群に分けた。また、それぞれの群において、オゾン治療により回復した群と回復しなかった 2 群に分けた。なお、今回解析した治療開始時低グレード群において回復しなかったのは1例だけであったため、「低グレードの非機能回復群」は比較検討の対象から除外した。 そのため今回の 比較は、歩行可能な低グレード群( A 群:n=41)、高グレードの機能回復 群 (B 群:n=32)、 高グレード 非機能回復群 (C 群:n=16)の 3 群間で 行った。 なお、C 群には脊髄軟化症と診断された2例が含まれる 。

結果
 治療開始時のグレードの平均値は、 A 群 1.8 ±0.4 、 B 群 3.4±0.6 、 C 群 3.8±0.9 であった。 一方、 最終 的な グレード の平均値は、 A 群 0 、 B 群 0 、C 群 2.7±0.9 であり、 A 群、 B 群に比べて C 群で有意に高かった。
治療開始時の平均年齢は、 A 群 7.5±8.1 歳 、 B 群8.1±2.7 歳 、 C 群5.5±2.5 歳 であり、 A 群、 B 群に比べてC 群で有意に低かった。発症から初診時 までの経過日数は、A 群 7.1±11.2 日、B 群16.0±27.6日 、C 群 20.0±10.7 日であった。 A 群に比べて C 群で有意に日数が経過していた。手術を受けた割合 は、A 群 6.3% 、B 群9.5 %、C群43.8%であり、A 群、B群に比べてC群で有意に手術を受けていた。ステロイド剤が使用された割合は、 A 群 28.1% 、 B 群 46.9% 、 C 群 31.3%であった。また、消炎鎮痛剤が使用された割合は 、 A 群 9.4 %、 B 群 9% 、C 群 6%であった。最初の症状改善傾向 を示す までの 治療日数 (および治療 回数 は、 A 群9.5±5.2 日( 1.4±1.1 回)、 B 群 10.9±11.5 日( 1.4±0.8回)、 C 群 16.7±12.8 日(1.9±1.4 回) であった。 グレードが改善するまでの 治療日数 (および治療回数 は、A 群 1 0.5±5.8 日(1.2±0.5 回)、 B 群 12.1±11. 8 日 (1.7±1.0 回 、 C 群 35.3±39.7 日(2.8±1.9 回)であり、 A 群、 B 群に比べて C群で有意に治療日数および回数を要する傾向が認められた 。最終的なグレードまでの 治療日数 (および治療 回数 は、 A 群 28.1±22.8 日(3.2±1.9 回)、 B 群 74.3±50.6 日 (6±3.7 回) 、 C 群 98.4±80.7 日(8.1±7.0 回)であり、 A 群、 B 群に比べて C 群で有意に治療日数および回数を要する傾向が認められた。

考察
 今回の解析から、犬の椎間板ヘルニアに対するオゾン療法の導入はグレード低減に効果があることが統計学的に示された。グレード低減に効果があることが統計学的に示された。グレード低減に効果があることが統計学的に示された。
犬の椎間板ヘルニアへのオゾン治療適応の特徴として、治療開始時のグレードに注目した場合 、 低グレード (グレード II 以下) の 症例に オゾン療法を実施することで より 高い 改善効 果 があることが示唆された 。 また、治療期間については 、治療開始時のグレードが低いものほど短期間で回復する傾向が認められた。 一方、 治療開始時の グレードが高い (グレードⅢ以上) 症例では 、 治療 に 費やす 日数と治療 回数が増加することに加えて、機能回復する個体 と回復しない 個体 が 存在することも 明らかとなった 。 これらの 治療特性を考慮することで、犬の椎間板ヘルニアへのオゾン療法導入は、より効果的な治療法になる と考えられる。今後は 、 オゾン療法による治療介入を行った場合と行わない 場合 の比較、 重症 の椎間板ヘルニア例への早期オゾン療法の 導入 による有効性、さらに、獣医療におけるオゾン療法の適応症 拡大も視野に入れて 研究を進めていきたい。

(本発表は、第57回比較統合医療学会にて学会長賞を受賞した)