犬の歩行異常と関節炎・変形性関節症(OA)
1. 概要
変形性関節症は関節の慢性的な退行性疾患で、関節軟骨の摩耗・破壊とそれに続く骨の変形・滑膜の炎症・関節包の線維化などを引き起こします。結果として痛み・可動域制限・跛行(はこう)・運動障害が生じます。
2. 原因
● 一次性(特発性)
加齢による自然な軟骨の変性(高齢犬に多い)
● 二次性(基礎疾患に起因)
股関節形成不全(hip dysplasia)
肘関節異形成(elbow dysplasia)
膝蓋骨脱臼(patellar luxation)
前十字靭帯断裂(cranial cruciate ligament rupture)
外傷や骨折後の関節変化
肥満(関節への負荷増加)
3. 臨床症状(歩行異常として現れる)
跛行(intermittentまたは持続的)
立ち上がりや階段の昇降を嫌がる
運動後の硬直や痛み(いわゆる“スターティングラメネス”)
関節の腫脹や熱感
筋萎縮(長期化した場合)
4.診断法
● 触診・整形学的検査
関節可動域の減少、疼痛の誘発、関節の不安定性評価
● 画像診断
X線検査:関節隙の狭小化、骨棘形成(osteophyte)、骨硬化
CT/MRI:詳細な構造評価や軟部組織(靭帯・半月板など)の観察(必要に応じて)
5. 治療法
● 内科的治療(保存療法)
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):痛みと炎症の軽減
サプリメント:グルコサミン、コンドロイチン、EPA/DHAなど
体重管理:肥満は関節負担の大きなリスク
運動療法:水中トレッドミル、可動域訓練、ストレッチ
理学療法:電気刺激・レーザー治療・温熱療法など
● 外科的治療(適応あり)
関節鏡手術:滑膜炎の除去や軟骨片除去
骨切り術(TPLO, TTA):十字靭帯断裂がある場合など
関節形成術・人工関節置換術:末期OAで重度機能障害がある場合
6. 予後と管理
変形性関節症は進行性の疾患であり、完治は難しい
早期発見・早期介入により、痛みの軽減・生活の質(QOL)の維持が可能
継続的な再評価と治療プランの見直しが重要
7.食事管理
食事療法(関節保護に配慮した食事)
・ 特徴
抗炎症作用(EPA/DHA、オメガ-3脂肪酸)
軟骨保護成分(グルコサミン、コンドロイチン)
適正体重の維持
酸化ストレスの軽減(抗酸化成分含有)
8.薬
①痛み止め・抗炎症剤
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
有効成分 製品例 備考
カルプロフェン リマダイル® 長期投与が可能、よく使われる第一選択肢
メロキシカム メタカム® 経口/注射あり。低用量から開始
フィロコキシブ プレビコックス® 小型犬に使用しやすい
ロベナコキシブ オンシオール® 1日1回投与。急性/慢性に使用可
②アドジュバント(補助的鎮痛薬)
NSAIDsだけでは管理困難なケースに併用される薬剤群。
トラマドール(Tramadol)
分類:μオピオイド受容体作動薬/セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用あり
特徴:慢性痛に有効。腫瘍・神経痛にも併用される。
用量:2〜5 mg/kg、8〜12時間ごと(体格・耐性により調整)
注意点:効果に個体差あり。眠気・興奮・嘔吐などに注意。
ガバペンチン(Gabapentin)
分類:神経因性疼痛に有効(GABA誘導体)
適応:神経根痛や脊髄疾患の併発、痛みに敏感な犬に。
用量:10〜20 mg/kg、8〜12時間ごと
特徴:NSAIDsが使えないときの代替や併用に有効。
アミトリプチリン(Amitriptyline)
分類:三環系抗うつ薬(鎮痛補助効果あり)
使用状況:慢性痛が心理的な要因(不安・うつ様)を伴う場合
注意点:国内での使用は限定的(専門医判断下)
③ オピオイド鎮痛薬(重度疼痛や手術後)
④新規疼痛治療薬(注射製剤)
🧬 ラベチマブ(Librela®)※2021年以降にEUや日本で承認
分類:抗NGFモノクローナル抗体
作用機序:神経成長因子(NGF)を中和し、疼痛シグナル伝達を遮断
投与方法:月1回の皮下投与
特徴:長期的な慢性OA疼痛に対し、NSAIDsに匹敵する効果あり、副作用が少ない
推奨:NSAIDsが使えない犬、高齢犬、長期疼痛管理に。
9サプリメント・補助療法
・ 軟骨保護・関節修復サポート
グルコサミン:軟骨基質の構成成分
コンドロイチン硫酸:水分保持、軟骨摩耗の抑制
MSM(メチルスルフォニルメタン):抗炎症・抗酸化作用
Ⅱ型非変性コラーゲン(UC-Ⅱ):免疫調整効果で痛み軽減
ヒアルロン酸:関節液の粘性保持
・ 抗炎症・抗酸化作用のある成分
EPA・DHA(オメガ3脂肪酸)
緑イ貝抽出物(グリーンリップドマッスル)
ビタミンE・C、セレン(フリーラジカル抑制)
・ サプリメント製品例(日本・海外)
商品名 主成分 特徴
コセクイン® グルコサミン、コンドロイチン
アンチノール® PCSO-524(緑イ貝オイル) 抗炎症効果あり
ジョイントケア(共立製薬) ヒアルロン酸、コラーゲン 国産
ダスクイン® UC-II、MSM、グルコサミン等 免疫調節系のOA治療補助
・その他の補助療法(薬物以外)
CBD(カンナビジオール)オイル:疼痛管理補助(研究中だが有望)
レーザー療法/超音波療法:非侵襲で疼痛緩和
水中トレッドミル:関節負担を抑えて筋力維持
10.鍼灸・整体・オゾン療法
物理療法の範疇に入りますが、人と違ってリハビリが難しい動物には有効な手段です。
血流と筋肉を維持し、機能が低下した、組織を針などを用いて直接刺激することができます。